異世界餌屋1話:こちらの世界の変わり者達のために

今日もお客が訪ねて来る。

「すいません、青色用の餌あります?」

私はこう答える。

「青色用ですね?だったら…この餌一番良いと思いますよ」

お客が返答する。

「いくらです?」

私が値段を確認し応える。

「それはたしか…50ダンっすね」

『ダン』とはこの世界の通貨だ。そのダン紙幣と商品を交換する。取引成立だ。もといた世界でやっていた取引と何も変わりはない。

 

このやり取りをこの世界に来て何度やってきただろうか。俗にいう異世界転生というやつだ。この世界の見た目としては元居た世界でよく見るファンタジーRPGの世界と似ている。

 

ではなぜこの世界、そしてこの国『ストラウス国』に飛ばされたのかは分からない。別に車にひかれたなどの死の記憶も無く『もと居た世界』でいつも通り夜に寝て、目が覚めたらこの世界にいたのだ。最初は夢か何かとも思ったが今現在まで覚める気配がないから現実なのだろう。

 

だがそんな着の身着のままでこの世界に飛ばされた何の才能も無かった人間が、なんで商売できるまでになれたのか。

それはひとえにこの世界、この国の『転生者保護システム』が厚かったことだろう。その転生者のための行政窓口があるほどだ。つまりそれだけ『転生者』という者達が多いのだ。私だけが特別なのではない。

 

私もこの保護システムのお世話になりこの世界の大体の事を教えてもらい、初期資金の融資等々色々と世話になった。

その教育と初期資金のお陰でこの世界である程度は安定した仕事を得られるようになったのだ。

 

で、私がこの世界でどんな仕事をしているのか。

それはペットの餌の販売だ。この世界にも犬猫等もいるし形は違うがクワガタやカブトもいる。そしてそれを飼育している人達も。

しかし、私が扱っているのはそんなメジャーなペットの餌ではない。私が扱っているのはヘビや亀、そしてもといた世界ではゲームの中にしか出てこないような生き物、つまり魔物たちの餌だ。

 

わざわざ襲われる可能性の魔物をペットにするようなやつなんているのか?と思うかも

しれないでしょう。しかし『変わり者』という存在はいるのです。

私のもといた世界でも毒のあるヘビやトカゲやカエル。それ以外だとムカデやゴキブリなどを飼育している人間がいた。そして同じ人間である以上、この世界でも変わり者は一定数いるのは当たりの事だ。

今私はそんな変わり者ためのお店をやっている。まぁ、元居た世界でも似たような事をやっていたのでこの生活に慣れるのはそう時間がかからなかった。

 

この世界、もといた世界でよく見たファンタジーRPGのような世界をめぐる『冒険者』たちもいる。いくらかの転生者もこの冒険者になるようだ。

冒険にあこがれるのは男の子なら一度はあるだろうが、今の私には残念ながらそんな元気はない。安定した居場所も手にいれた今はなおのことである。

そして何より死にたくない。

 

この世界がいかに私がもといた世界のファンタジーRPGに似ているといってもこの世界はゲームではない。レベルなんてないしどれだけ強くなったと言っても無防備で攻撃を受けてもノーダメなんてことはない。普通に痛いし、下手すりゃ死ぬ。

そんな多くの危険が付きまとう冒険なんてまっぴらごめんである。私の世界は私が今いる所から見える世界で十分だ。

 

そんな感じで今日も変わった生き物を飼育している変わり者をイスに座って、のんびりと待つ。