異世界餌屋6話:自警団と奴隷、そしてツケ回収

「ようこそいらっしゃいました。お疲れ様です、黒斐様。」

「あぁ…その、どうも、ベルさん」

とある建物の中に入ってすぐある女性に出迎えられ私もぎこちない挨拶をする。

 

この建物はエリア34の自警団の隊舎だ。ここは私達の住むエリア34地域を犯罪などから守るために活動する人達が情報交換や休息・談笑の場に使う場所だ。だから私も一応団員なのでここに入る権利がある。

そして

 

「私に『さん』付けなど勿体ない、呼び捨てで構わないと言っているではありませんか」

「いや、そうはいってもなぁ…、一度さん付けに慣れてしまうとどうもね…。」

 

入ってすぐに声をかけてきた人間の白人女性の名前はベル・フルール。肩まである綺麗な金髪と少し釣り目でいかにも真面目といった感じの表情をした女性だ。

基本的にその真面目は表情を崩さないので一見すると無愛想な感じもするがそれが彼女の魅力の1つになっていると思う。

そして最大の特徴は、彼女はこの隊舎で『使われている』奴隷だという事だろう。

首にあるつなぎ目の無い灰色の首輪がその証だ。

 

このセカイでは合法的に奴隷という物が存在する。

彼ら彼女らは人権という物が全くない存在だ。ゆえに何をされても何も文句は言えない存在だ。このセカイ、様々な種族がいるこのセカイで種族間の差別が少ないのはこのような『差別出来る存在』が大きいともいわれている。

しかし、かといって奴隷の全員が全員おぞましい扱いを受けているかといったらそうではなく、貴重な労働力として扱われる事も多い。このベルさんもそうだ

 

「あぁ、それはさておき、今日は誰が来てます?…あ、来てるの?」

話を本題に切り替えベルさん隊舎に誰が来ているのかを聞く

「本日は稲葉様とタイガー様がこちらに来て今はパトロールへ、そして…」

ベルさんが目線を部屋の奥に向かわせながら

「ソルベラート様が来ております。」

と続ける。その目線の先にはイスに座り水晶を覗く小さなダークエルフが。…よし、いるな。

「…了解、ありがとう。」

「いえ、また何かございましたらいつでも」

 

ベルさんにお礼を言った後、ゆっくりそのダークエルフの下へ向かう。わざとらしい笑顔を作りながら。

しばらくして、向こうもこちらに気づき明らかに表情がこわばる。

そして彼女の座っている席の机の前に立ち

「やぁソルベラート、景気はどうだい?」

その笑顔でそう話しかける。

「お…おう、黒斐…まぁ、ぼちぼちじゃよ。」

恐らく恐怖のせいであろう引きつった笑顔を浮かべながらそう答える彼女はソルベラート・ルン。ダークエルフの少女だ。たしか16歳位だったはずだか見た目は明らかにそれ以下にしか見えない。

 

「ほうほう、それは良かった、じゃあ…」

そこで笑顔作りを止めこう言い放つ。

「この前氷室さんに買わせに来た分も含めた今までの『つけ』4000ダンしっかり払ってもらおうか…」

「いや、まてまて、待ってくれ、少し、な?話そう。な?」

「いやいや、景気が良いのならすぐに払えるだろう?」

「いやー、その、それがじゃな?その、新しい魔装具とか衝動買いしてたらな?…ハハハ…」

「…………」

「…………」

しばらく沈黙が続く。そして。

「はぁ、またか。」

私が折れる。いつもこの調子だ。出せねぇ物を出せと言い続けても仕方ないというのもあるが。

「いや、ほんとに、ほんとにすまぬ。」

ひたすらに手を合わせ平謝りするルン。

これもいつもの光景だ。

「変な所から借金とかしてねぇだろうな?」

「それは大丈夫じゃ、さすがにそこまではしとらん」

…まぁ、なら良いか。…年下だからって少し甘いかな?

 

「そうじゃ、今からワシが払ってやろうか?カ・ラ・ダで。男一人の生活で大変じゃろう?」

「黙れネオテニー」

「冗談じゃ…っておおい!!今とんでもなく酷い事言わなかったか!?」

 

そんな会話を続けていると。

「いつもすいませんなぁ、うちのマスターが」

そういう声が聞こえる。私もその声に答える。

「そう思うなら言い聞かせてくれよホー君」

「常日頃言っては行ってはいるのですがねぇ。マスターの衝動買いは中々止められないのですよ。いつの間にか買ってしまっていますし」

声の主は彼女の机の端にいるフクロウだ。名前はホー君。

このセカイ、時々このように会話が出来る生き物がいて一部の人間が彼らを使い魔として使っている。

「それはそうと、この前のマウス更に美味しくなってましたよ。また腕をお上げになったのですねぇ」

「あ、分かる?最近冷凍魔法を以前より早く、より冷たく出来るようになったんだよ。」

ホー君は私の餌の評価をしてくれる。

 

こうやって意見を聞けるのは本当に有難い。当たり前だがペットという物とは基本的に会話が出来ない。なので今自分が扱っている餌がペット達にとってどんな評価なのかが分からないのだ。しかし、このセカイには人と同じ言語でしゃべり意思疎通が出来るペットがいる。だから、そのペットの意見から自分の餌そして自分の餌を扱う技術が今どれ位かが分かるのだ。

 

「ま、とにかく早めにかえせよ」

「りょ、了解じゃ。」

溜息まじりにそう言い残しつつソルベラートのそばを離れ隊舎のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れくつろいでいると。

「あの、黒斐様」

「はい?」

ベルさんがこちらに話しかけてきた。

「さきほどソルベラート様が男一人で寂しいのではとおっしゃってましたが、もし必要ならば奴隷の立場である私を自由にお使い下さい」

「…それ、意味わかって言ってる?」

「勿論です」

彼女の目はいつものように真剣だ。…この人は…本当に…。

「有難い話だけど気持ちだけでいいよ。氷室さんや稲葉のおやっさんにおこられそうだしね。」