異世界餌屋4話:食べ過ぎではない

 

「まったく、今回も予想通り消化不良だったよ」

よく手入れされていると一目で分かる金髪をなびかせ、私の店でお茶を飲みながらそう言っているのは私の友人のロバートだ

仕事終わりに遊びに来たらしい。

彼とあるバーで出会い、年齢や住まいも近かったこともあって意気投合しそれ以来時折こうやって会話を楽しむ仲になった。

 

彼は人間の男とエルフ族の女性の間に生まれたハーフらしく、純血のエルフ族ほどではないが耳が若干とがっている。

そして彼の父が私と同じ転生者だったらしく、かれはその父の子供で所謂転生者2世というやつだ。

 

そして、そんな彼がどんな仕事をやっているかというと、獣医師をやっている。

つまり動物の健康を預かる仕事だが、ただの獣医師ではない。彼は魔物も診る獣医師なのだ。

彼の父が元々獣医師で彼がその後を継ぎ魔物も診るようになったらしい。

魔物の獣医師はなるにはかなり難しいらしいが、頭が良かったのだろう。

 

「しかしキマイラなんてよく診れるなぁ。下手すりゃ食われるじゃん」

お茶のお供用のバタークッキーを出しながら私が言う。

「それが仕事だからね。それに実入りもいいんだよ」

彼は笑いながら答える。ブルジョアめ。

 

そう、彼が診てきたのはキマイラという魔物だ。体がライオン、その背中からヤギの胴体がくっついており、尻尾はヘビでそれぞれが意思を持っているかなり狂暴な魔物だ。

当然、飼育にはそれなりの設備がいるので主にお金に余裕のある貴族などに飼われている。

彼が実入りが良いと言ったのはそういう所も関係している。貴族らは金払いが良いからね。

 

そしてそのキマイラは消化不良を起こし体調を崩していたらしい。

先ほど彼が『今回』も言った通り、飼育されているキマイラによくある症状だ。

これはキマイラの体の構造に理由がある。

キマイラはライオン、ヤギ、ヘビの部分がそれぞれ独立した胃を持っているが、腸と肛門は共用という体をしている。そのため、それぞれの胃に満足するだけ餌を同時に与えるとそれが一気に腸に集まってしまって詰まってしまうのだ。

野生では同時に満腹になる状況などまず起こらない。ゆえに飼育環境特有の症状と言える。

 

「でもさ、あいつらいつもなんて言うと思う?「この子が食べ過ぎちゃって」っていうんだよ。笑っちゃうよね」

「まぁ、『食べ過ぎ』じゃなくて『与えすぎ』だよなぁ」

彼が言葉を続け、私もそれに答える。

そう…彼も言っている通り、どんな生き物もそうだが飼育されている以上『食べ過ぎ』はあり得ない。ケージで管理されている生き物が勝手に食事をするなんて不可能だ。

 

正しくは、飼育者が『与えすぎ』なだけである。

欲しいだけ餌を与えたい気持ちも分からない訳ではないが、そこは飼育者としてちゃんと管理するべきだろう。

好きなだけでは飼育は出来ないのだ。

 

そんな事を話ながらクッキーとお茶を楽しむ。

しかしこちらの世界のバタークッキーも美味しい。

 

そんな話をダラダラしたり、時々来るお客の相手をしたりしているうちにもう夕方である。

 

「さて、長居してしまったね。僕はそろそろ帰るよ。」

そういってロバートが立ち上がり出口の扉に手をかける。

「そういえばさ、なんでこの扉壊れかかってるの?」

「この前氷室のヤツがぶっ壊したんだよ。」

「あー…。」

 

去りにそんな言葉を交わし、ロバートは出て行った。

カチャン。

それと同時に扉から何かが落ちた音がする。

「あ…」

それは扉の蝶番だった。